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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
荷物は式のある四、五日前に送り届ければいい。当日は混雑しないようにッて、先方から言って来た。荷回し人はおぼしめし次第だ、そんなことも言って来たが、中牛馬会社に頼んで、飯田まで継立てにするのが便利かもしれないな。」
半蔵の挨拶だ。
九月四日は西が吹いて、風当たりの強いこの峠の上を通り過ぎた。払暁はことに強く当てた。青山の家の裏にある稲荷のそばの栗もだいぶ落ちた。お粂は一日機に取りついて、ただただ表情のない器械のような筬の音を響かせていたが、弟宗太のためにと丹精した帯地をその夕方までに織り終わった。そこへお民が見に来た。お粂も織ることは好きで、こういうことはかなり巧者にやってのける娘だ。まだ藍の香のするようなその帯地の出来をお民もほめて、やがて勝手の方へ行ったあとでも、お粂はそこを動かずにいた。仕上げた機のそばに立つ彼女の娘らしい額つきは父半蔵そのままである。黒目がちな大きな目は何をみるでもない。じっとそこに立ったまましばらく動かずにいるこの娘の容貌には、一日織った疲れに抵抗しようとする表情のほかに浮かぶものもない。涙一滴流れるでもない。しかもその自分で自分の袂をつかむ手は堅く握りしめて、震えるほど力を入れていた。