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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

いつ見てもそうときまっていて、その顔つきには表情の変化が現われて来ない。後から聞けば、その叔母はどうしたわけか結婚して間もなく、裏の溝川に身を投げた。気がふれたのだという。そういう話を聞けば顔だちの特徴にはなるほどと思われるふしがある。鶴見は今は未亡人であるこの叔母を尊敬もし、また親しんでもいた。特色の出ている人を好む彼の性向は早くこのころから萌していたものと思われる。

新築後は以前から長くいたおだいという乳母もいなくなった。二人までいた同居の人たちも立退いた。別れた母の代りには姉と叔母とが立働いている。これも家庭の改革であった。

新築祝いがあった。

先ず客を招く準備として、襖絵の揮毫に大場学僊を煩わした。学僊は当時の老大家である。毎朝谷中から老体を運んで来て描いてくれた。下座敷の襖六枚には蘆に雁を雄勁な筆で活写した。雁の姿態は一羽一羽変化の妙を極めているが、放胆な気魄を以て、その複雑さを貫通している。二階には大きな波のうねりを見せ、波の上を鶴がのどかに舞っている。襖四枚である。これには淡彩を施してあったが気品があった。小襖には斜に出た菊の枝、通い口の三尺の襖には小松が景色を添えている。