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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

もしそれがあったなら花袋の文章はもっと精彩を放っていたろう。それはいかにも惜しむべきであったにしろ、自然主義作家のうちで類例を求むれば、やはりドオデエに似寄ったところがあったのではなかろうか。

天稟の美しい情緒を花袋はもっている。それを禅に参ずる居士が懐くような自負心で掩うている。実際のところ、かれの情緒はその自負心によって人生の煩累から護られていたのである。

鶴見は短冊を一枚花袋から貰って、戦禍に遇うまでは、ちょくちょく短冊かけにかけてながめていた。短冊は竜土会であったか、それとも別の会合のおりであったか、いずれにしてもその席上で、酔余の興に乗じて書き散らしたその中の一枚である。鶴見は半切や短冊をねだって書いてもらうのを好まなかったので、そんなものは一枚も持ってはいなかった。花袋はその夜どういうわけか、その短冊を黙って鶴見に手渡したのである。

山松のあらしのなかに落ちゆく月いかば

かりさびしかるらむ

こんな歌が書いてある。感傷的な気分はあっても、読んでみて、それがすこしも瑕にはならない、好い歌として歌いあげられる。情緒と悟性との調和がそこに見られるからである。