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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
しかし今度は本物の方だよ。」
鶴見はますます乗り気になって長話をはじめた。
その長話というのはこうである。鶴見はそれが夏時分であったということを先ず憶い起す。自家用の風呂桶が損じたので、直しに出しているあいだ、汗を流しにちょくちょく町の銭湯に行った。鶴見にはその折の情景がようように象を具えて喚起されるに従って、その夏というのは日華事変の起ったその年の夏であったように思われてくる。
或る日のことである。晩方早目に銭湯に出掛けて見ると、浴客はただ一人ぎりで湯槽に浸っていた。ほどよく沸いた湯がなみなみと湛えられて、淡い蒸気がかげろうを立てている。その湯のなかで、肌の生白い男が両手をひろげて、泳ぐような真似をしていたが、鶴見を迎えて「静岡は水道が好いので水がこんなに澄んでいる。それにこの水の柔らかさときたらたまりませんな」と話相手欲しそうにいった。
鶴見はこの男を貨物の注文を取りに来たか買出に来たか、そんな用事で、近所の商人宿に泊っているものだろうと思って見た。
その男と話しているうちに、何かの拍子から、話は琉球の泡盛のことに移った。最近その泡盛を飲ませる店が、この風呂屋の向横町に出来て、一杯売をしている。