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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

その温みを慕って来たものか、綴じ合せた縁板の隙間からちろちろと這いあがって来るものがある。見れば小さな蜥蜴である。背の色が美しい。碧緑とも紫紺とも思われて、油を塗ったような光沢がある。胴体はいかにも華奢であるが、手足はよく均衡が取れていて、行動が敏捷である。それがあたかも宝石を入れた精巧な懐中時計の機械のようである。

娘の静代はめざとくこれを見つけて、「ちっぽけな蜥蜴があんなとこを這っています」といった。軽蔑の念と共に憎悪の念もまじっているような言葉つきである。

「もう蜥蜴が出るような時節になりましたね。」曾乃刀自はこういったきり無心である。

「あんなちっぽけな虫。それでも気味のわるいことね。追っ払ってしまいましょう。」

静代は手を挙げて蜥蜴を追い払うまねをしている。

「いや、待て。あの蜥蜴のどこが憎くらしいのだ。あれはね。言って聞かすが、お父うさんの、そうだな、魂だよ。」

静代は思いも掛けぬ父の言葉を受けてびっくりした。曾乃刀自は例によってただ笑っていた。

蜥蜴はそのうちに忽ち姿を隠してしまった。

「おお」といったきり鶴見は黙っていたが、少し間を置いて、「あが蜥蜴まろ」