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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

人はそれを聞いたなら不遜だといって非難するであろう。しかしそれをも意に介せない。鶴見はこれによって鴎外の声価を少しも損ねようとは思っていないのである。

鴎外にも弱点はあった。鴎外は自己を知り過ぎるくらい知っていた。その弱点というのは、自負の心である。消極的にいえば『舞姫』以来のニルアドミラリである。それを自己の性癖として絶えず抑えつけている。鴎外が寛容を示そうとしたのはそのためである。それにもかかわらず自己制圧の手の下から逸れて僅に表面にあらわれて来たのが、例の難渋なあそびである。現実離れのした遊刃余りありというようなわけではあるまい。所詮は鴎外の諦めても諦らめられぬ鬱悶を消する玩具であろう。不平もあれば皮肉もある。嫌味も交る。しかしそこには野趣がある。鴎外はここではじめて胸襟を開いて見せる。いわば羽目を外すのである。鶴見は今ではその事を面白いと思っている。

あれは鴎外の玩具の操作である。しかもその玩具は手細工で頗る込み入ったものである。よく大夫の手元を見るが好い。拍手の起らぬのを、鶴見はむしろ不審がっている。真の大夫が舞台に出ているのではないか。