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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

「松本へ海老蔵が来たな、こいつは一番見ずばなるまい」

という気になりました。

兵馬の、芝居を知らないことは、これらの人々より一層上で、さりとて、宇治山田の米友ほどに、絶対にそんなものが頭に無いというほどではないが、今は、芝居どころの沙汰ではない。

ところが、仏頂寺と、丸山は、松本へ着いたら市中へ宿を取らずに、まず浅間の温泉へ行こうという話をしている。それを聞いていると、どこまでも遊山気取りです。

いったい、この連中、亡者みたように道中を上下しながら、こうも暢気なことがいっていられるのは不思議だ。いったい、路用の財源はどこから出るのだろうと、兵馬はまじめに人の懐ろまで心配してみました。しかし、まあこのくらいに腕が出来、武芸者として面が売れていれば、到るところに相当の知己があって、多少の路用には事欠かないのだろう――お銀様と別れた後の自分は淋しい。人の気も知らないで、といったような気分にもなりました。

そうして松本をめざしてゆくと、松本方面から、飄然と旅をして来た浪士体の精悍な男が一人、

「やあ、仏頂寺……」

と、いきなり先方から言葉をかけると、

「おや、川上」