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だいぼさつとうげ

大菩薩峠5

中里 介山

中里介山『大菩薩峠5』。同一底本的分册已合并为一书。收入:大菩薩峠、大菩薩峠、大菩薩峠。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,120 字 · 516 页

青空文庫

その相手の武士であると犬殺しであるとに論なく、牙に当る限りは噛み散らし、顋に触るる限りは噛み砕いても、この場を逃れるよりほかはないのであります。

いま猛然と突き出した神尾主膳の槍を、ムク犬はスウッと潜りました。その首には前のように鉄の鎖と麻縄とをひいたままで、槍の上からムク犬は、一足飛びに神尾主膳の頭の上まで飛びました。

「小癪な!」

主膳は槍を手許につめて、身を沈ませて上から飛びかかるムク犬を、下から突き立てようとしました。その隙を与えることなく、ムク犬はガブリと神尾主膳の左の肩先へ食いつきました。

「呀ッ」

神尾は槍を持ったまま後ろへ倒れるのを、それッと言って応援の者が、ムク犬に槍を突っかけました。ムクは転じてその槍をまた乗り越えました。ムク犬は単に勇猛なる犬であったのみならず、女軽業の一座に仕込まれたために、比類なき身の軽さを持っていました。そうしてヒラリ、ヒラリと人の頭の上を飛ぶことは、多くの敵手を悩ますことにおいて有利な戦法であります。

それより以後におけるムク犬の荒れ方は、縦横無尽というものであります。

武士と言わず犬殺しと言わず、その人の頭を飛び越して、ついに座敷の中へ乱入してしまいました。