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てんさいけいまい

天才兄妹

野村 胡堂

「少女倶楽部」1928(昭和3)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,891 字 · 20 页

青空文庫

それに、何処から伝ったか、今日の演奏会に、立花幾久雄はストラドヴァリウスをひくということが知れ亙って居たので、その失望も亦大変なものでした。

「何んという下手だろう」

「セザール・フランクのソナタを虐殺するようなものですね」

「まるで滅茶滅茶だ」

「ヴォイングが非常に悪い」

「あれ位は縁日の書生節でもひきますよ」

知るも知らぬも、素人も玄人も、廊下や運動場は悪評の渦を巻くような有様です。

幾久雄は元よりそれを覚らないわけはありません。

「信ちゃん、僕はもう出ない、このまま帰って了うから、後を支配人と相談して、いいようにしてくれ」

立ち上ろうとするのを、

「あれ、お兄様、そんな事を仰しゃっちゃいけません。こんな筈は無いんですから、よく心持を落付けて、どうしてあんなに出来が悪かったか、静かに考えて下さい」

たった十六になる信子は、思慮深くこう兄をなだめて居ります。

今日はお納戸色地に、秋の草花の総模様の紋付、紅葉を縫い出した糸錦の帯を蝶結びにした初々しい姿は、この優れた伴奏者を、世にも美しく見せて居ります。

「悪いと言えば、このヴァイオリンだよ、軽井沢でひいた時はこんなでなかったが、今朝絃をかけ直して調子を合せて見ると、すっかり音色が変って居る、こんな馬鹿なストラドヴァリウスはあるものじゃない」