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あまくさのはる

天草の春

長谷 健

「九州路抄」日本交通公社、1948(昭和23)年9月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,293 字 · 15 页

青空文庫

その間にあつてなしの花が、端麗な色彩を、背後の海の青さに、一そう引立たせている。びわの新芽の青さを、私はしばしばボケの花ではないかと、注意深く眺めたものである。

麦の穂も、ほとんど出そろい、花期の長い菜の花大根の花には、もう青い実がむらがりついている。

グリンピースや蚕豆が、この島の名物の一つと聞いていたが、さすがにその評判に違わず、白い蝶形花冠が、旅人の目をなぐさめる。日に一回しか通らないバスは、村人にとつては珍しいものの一つででもあろうか。折から、さつまいものいも床づくりに余念のない百姓たちが、その手を休めて見送るのんびりした光景も、南国らしい眺めである。

佐伊津、御領、鬼池を過ぎると、有明海と、早崎海峡をへだてた島原半島が、指呼の間に望まれる。右手の沖合に、瀬戸内海航行の時見覚えのある、屋島に似た、下手な粘土細工の文鎮をおいたような島がある。湯島という島だが談合島の名もある。天草の乱に際し天草四郎以下の切支丹宗徒の幹部連中が、この島によつて、種々作戦を練り談合したので、それ以来その名が冠せられるようになつたそうだ。見はるかすこの内海を、縦横にかけめぐつて、時の支配階級の宗教弾圧に抗した、切支丹宗徒の情熱が、じかに感ぜられる思いがする。