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たじゅうとそのいぬ

太十と其犬

長塚 節

「ホトトギス」1910(明治43)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,769 字 · 32 页

青空文庫

死ぬ迄も依然として身体は丈夫であったけれど何処となく悄れ切って見えた。それは瞽女のお石がふっつりと村へ姿を見せなくなったからであった。彼がお石と馴染んだのは足かけもう二十年にもなる。秋のマチというと一度必ず隊伍を組んだ瞽女の群が村へ来る。其同勢のうちにお石は必ず居たのである。晩秋の収穫季になると何処でも村の社の祭をする。土地ではそれをマチといって居る。マチは村落によって日が違った。瞽女はぐるぐるとマチを求めて村々をめぐる。太十の目には田の畔から垣根から庭からそうして柿の木にまで挂けらえた其稲の収穫を見るより瞽女の姿が幾ら嬉しいか知れないのである。瞽女といえば大抵盲目である。手引といって一人位は目明きも交る。彼らは手引を先に立てて村から村へ田甫を越える。※(「塞」の「土」に代えて「衣」、第3水準1-91-84)げた裾から赤いゆもじを垂れてみんな高足駄を穿いて居る。足袋は有繋に白い。荷物が図抜けて大きい時は一口に瞽女の荷物のようだといわれて居る其紺の大風呂敷を胸に結んで居る。大きな荷物は彼等が必ず携帯する自分の敷蒲団と枕とである。此も紺の袋へ入れた三味線が胴は荷物へ載せられて棹が右の肩から斜に突っ張って居る。