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めおとのあさ

夫婦の朝

山本 周五郎

「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,008 字 · 22 页

青空文庫

と三右衛門は顎をあげて、「古い手紙があるだろう、そいつを焼いて了おうと思うんだ、おまえ小さく裂いて渡して呉れ」

「……はい」

お由美は云われるままに縁側の端に置いてある手紙の束を取上げたが、その表を見、裏を返すなり、危うくあっと叫びそうになった。

――どうして是が。

どうして是がと眼も眩みそうに愕いた。

そのために死のうとまで覚悟した自分の手紙、稚き日のあやまちの手紙、どうしてこれが良人の手にあるのか、どうして新五郎の手から此処へ来たのか。

「さあ、どんどん裂いて呉れ」

三右衛門は勢いよく燃えはじめた焔を見ながら促した。

「考えることはない、早く裂いて此方へ寄来さないか、……焼いて了えば灰になる、それですっかり鳧が着くのだ」

「……あなた」

「いいんだ、分っているよ」

三右衛門はなんども頷いた。

お由美は夢中で手紙を引裂いた。その一通ずつが、自分の命を取返す救いの神のように思われた。……三右衛門は裂かれた文反古を、次々と火にくべた。

薄青い煙の尾は、研いだような青空へゆらゆらと立昇った。

――良人は知っていた。

――良人は新五郎の始末をして呉れた。

――自分は赦された。