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めおとのあさ

夫婦の朝

山本 周五郎

「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,008 字 · 22 页

青空文庫

一

一

霜月のよく晴れた日であった。

お由美は婢のよねを伴れて浅草寺に詣でたが、小春日和の、如何にも快い陽射しに誘われて、つい大川端の方へ足が向き、それから橋場の先まで歩いたので、帰りにはさすがに少し疲れ、茶屋町まで来てふと通りがかりの掛け茶屋へ休みに入った。

舌を焦がすような渋茶を啜りながら、お由美は摘んで来た野菊の枝を揃えた。もう葉は霜枯れているのに、鮮やかな紫の三、五輪の花は、そのまま深い秋の色をとどめている。

――雄物川の岸にも咲いていた。

ふと故郷の山河が眼にうかんで来た。

「きれいな色でございますこと」

よねも眼を細めながら云った。

「秋らしくて、いい花ね。いちばん好きよ、秋田へ行くと一面にこれが咲いているの、雄物川という大きな川の堤なのよ……子供のじぶん親しいお友達と二人きりで、誰にも教えない約束をして、大事にしていた場所があったわ」

「あちらはずっと北国でございますか」

「そう、今じぶんはもう雪だわ」

お由美は遠くを見るように眼を上げた。

雪国で育った肌は絖のように白くひき緊って、眉つき眼許の淋しいなかに、飽くまで朱い湿った唇だけが、身内にひそんでいる情熱を結んでみせたかのように嬌めかしい、……江戸の下町で生立ったよねなどから見ると、それは妖しいほどの美しさであった。