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めおとのあさ

夫婦の朝

山本 周五郎

「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,008 字 · 22 页

青空文庫

六

なんの屈託もない明るい調子だった。

三右衛門が明るいほど、お由美の自責は烈しかった。……良人の健康な顎が、逞しく食事をする動きにさえ、胸を刺されるような苦しさが感じられる。

――五十両の金。

――なにをするか知れない新五郎。

――良人の恥辱。

そんな言葉が断れ断れに、紊れた頭のなかで火花を散らしながら旋回する。

「先に寝ていていいぞ」

そう云って三右衛門が出て行くと、お由美の追詰められた感情はもうぬきさしならぬ絶望の壁へ突当っていた。心が狭いとひと口に云う、云うのは男、男から見るとそうかも知れない、然し女は男ほど生活のひろがりを持っていない、艱難に順応することは出来ても、是を打開する力を恵まれていない、退引ならぬ穽に追込まれた女性が多く選ぶ方法は、だから大抵は一つところに帰着する。

――もうどうしようもない。

お由美は決心した。

今宵ひと夜を名残りに、明日は行って此身の貞潔を証し、良人の汚名になるものを除いて了おう。

用箪笥の中から懐剣を取出して来たお由美は、行燈の火に刃を照しながら、いつまでも凝乎と瞠めていた。

六

「彦右衛門、此処だ」

「は、……行って参りました」