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ちぎりきぬ
契りきぬ
山本 周五郎
「ロマンス」ロマンス社、1949(昭和24)年10月~11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,757 字 · 66 页
二の二
――どうしてあのときあのように見えたのだろう、まるで正二郎さまそっくりに見えたと思ったのに、……これが気の迷いというものかしらん。
しかしそれで却って気持は軽くなった。心のなかで大切にしてきたひとと、おもかげがそれほど似ているとしたら、決心したことをやりとげることはできなかったかもしれない。今はそんなたじろぎはなかった。おなつは、寧ろ自分で自分を唆しかけながら、その機会の来るのを待った。
二の二
機会は一つしかない。友達とどこかで会合して、夜おそく酔って帰る、それがもっともよい機会である。おなつはすぐにそうみてとった。ときにはずっと更けて帰ることもあるし、そんなときには伊代に代って寝所の世話もするから、ごく自然に事がはこびそうであった。
けれどもおなつは決していそがなかった。伊代から貰ったじみな着物や帯を、さらに出来るだけじみに着、伊代がすすめる化粧もせず、髪なども眼立たない古風な結いかたをした。
「どうしてそんなふうになさるの、若いひとは貴女だけなのだから、少しは家のなかが華やぐように、娘らしい身じまいをなさいな」
伊代はこう云って、ときどき自分で髪をあげて呉れたりした。