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じょよう
女妖
江戸川 乱歩
01 前篇
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,691 字 · 20 页
それが恐ろしかった。
気がつくと、目の前の群衆の中に、突拍子もない色彩のものが、まじっていた。モーニングを着て、山高帽をかぶって、顔には壁のように白粉を塗って、つけひげをした男が、プラカードを捧げて、悠然と歩いていた。
二三時間前、浩一が銀座通りを歩いたとき、どこかの街角に立って、ステッキで、一方をさし示しながら、目と口を一緒に、ひらいたり、ふさいだりしていた、あのサンドイッチ・マンであった。
「サンドイッチ・マンになれば、世間から自分を消してしまうことが出来るんだな」と思った。しかし、広告会社へ行って、衣裳を借りたり、賃銀を貰ったりしなければならない。ほんとうに消えるなんて、出来っこないことだ。
浩一は山高帽と、汚れたモーニングの広い肩を見ながら歩いていた。すると、サンドイッチ・マンが、大きなガラスの前で立ち止まった。ガラスの向う側には、白砂糖で出来た西洋館がキラキラ光っていた。その向うの方に、人の頭が幾つか見えた。明るい電燈の下に腰かけて、お茶を飲んでいる。
その中の一人の婦人の顔が、浩一の網膜に焼きついて来た。髪を西洋人のような形にした、美しい洋装の人であった。