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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

「豪い顔になったよ。もっと冷し給え」

と木下君は今更驚いた。

「馬鹿を見た。この間の伝で妻を吃驚させようと思ったのに」

と千吉君は鼻声になっていた。

「吃驚しましたわ」

と安子夫人は木下君夫婦の手前、言いたいことも言わなかったが、木下君が千吉君に度々乗馬を勧めたことを思い出した。

「真正に飛んだことでございました。少しお休みになっては如何でございましょう?」

と奥さんは気の毒がった。

千吉君は長椅子に寝転んで尚お少時冷した。その間に夫人同志は打ち寛いでこの土地の生活を語り合った。

「何うだい。その鼻で検分が出来るかね?」

と木下君は気遣った。

「大丈夫だよ。鼻で物を見やしまいし……」

と千吉君は平気だったが、

「あなた、見っともないわ。今日はもうお暇致しましょうよ」

と安子夫人は持て余した。

「お暇致せば尚お見っともない。電車に乗るんだからね」

と千吉君は先の先まで考えていた。

「晩までい給え。今に大場君も来る。迚もこれは終電車で帰る鼻だぜ」

と木下君が引き止め、

「真正に何うぞ御ゆっくり願います。一日郊外気分をたっぷり味わって下さいませ」

と奥さんも勧めた。

主人の鼻は兎に角、安子夫人は荻窪が気に入った。