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こうじんぶつ
好人物
佐々木 邦
「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页
「然うして戴けば好都合ですわ。越後屋の方へは何とか巧く申して置きますから」
「郷里から小作米が来たとでも言うさ」
「田地がおありですからね。オホヽヽ」
と安子夫人はもう御機嫌が直った。米を二俵無条件で貰えば上等の半襟が五六本買える。考えて見ると詰まらないのは千吉君で、
「只の積りの謡曲が案外高くつく。橋口君は何うも口が巧くていけない」
と呟いた。
「その代りに犬を二匹貰って戴けるじゃありませんか?」
「ところが犬は頭から断られて来た」
「まあ」
「七匹生れたことを話して一匹貰ってくれまいかと頼むと、橋口君は、さあ、と首を縦に振りかけたが、奥さんが洒々り出て、犬は嫌いだと言うんだ。猫なら好きですから何匹でも戴きます、だとさ。出来ない相談だから仕方がない。美事撃退されてしまった。俺は駄目だよ。勧められることは上手だが、勧めることは赤っ下手だからね」
「まあ、何て憎らしい奥さんでしょう? 猿虎蛇の謡曲で沢山なのにお里のお米の押売りまでして、此方の犬は一匹も貰って下さらない。余りですわね。何か私に遺恨でもあるのでしょうか? 宜いわ。私近所界隈の猫を貰い集めて五六匹持って行って上げるわ」