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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

と安子さんは敦圉いた。

こんな身のある談話の中に晩餐を認め終ると、千吉君はソワ/\して、

「実は俺はこれから又出掛けなけりゃならない」

と言った。

「まあ、何処へいらっしゃいますの?」

「内藤君のところへ」

「あら、今日内藤さんの奥さんがお見えになりましたのよ」

と安子さんは晩迄取って置いて訓戒の材料にする積りでいた問題に移らなければならなかった。

「然うかい。あの奥さんは厳しいんだね。内藤君は俺が誘ってやらないと機嫌好く出して貰えないんだよ」

「何処へお誘いになりますの?」

「今夜は何処って目的もない。唯誘い出してやれば停留場で別れても宜いんだ」

と好人物の千吉君は例によって鰹節役を仰せつかっている。

「あなた、私それを今晩ゆっくり申上げようと思っていたんですよ。実は今日奥さんが大変なんでしたの」

「あの奥さんはヒステリーだよ」

「あなた、若し私がお冗舌をし過ぎたんなら堪忍して頂戴よ。あなたの御迷惑になるかと思って、私……」

と安子さんはしおらしく言い淀んだ。細君同志の交際も好いが行違いのないようと常々断られている。八千代さんは気を利かして二階へ退却した。

「何を言ったのさ、お前は?」