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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

安子さんは窃っと腕時計を見た。

「込むわね」

と間もなく二人は玩具の陳列場を分けて歩いていた。

「ないわ、生憎」

「何でございますの?」

「犬よ。これ/\、これをこの間から責められていますの」

と内藤夫人の指さしたのは車のついた大きな赤犬だった。

「迚も大きいのね」

「一番大きなのでなくちゃ承知しませんの」

「坊ちゃんは犬がお好きですか?」

「大好きよ。一軒置いてお隣りの犬が遊びに来ますとナカ/\帰しませんの。そのくせ猫は大嫌いなんですよ」

「奥さま、一匹お飼いになっては如何?」

と安子夫人は橋口夫人のことを思い浮べながら、玩具の犬の取引最中へ真物を薦めた。

「飼ってやりたいと存じまして、御用聞きに頼んでありますの」

「宅で一昨日の晩生れましたのよ。七匹! 今の中なら何れでも択り取りでございますわ」

「まあ。どんなに清坊が喜ぶでしょう。是非一匹お願い致します。猫は御免ですけれど犬なら泥棒の用心にもなりますから」

と内藤夫人は橋口夫人とは正反対だった。

「私の方からお願い申上げますのよ。何分七匹ですから縁づけるのが一苦労でございます。真正に助かりますわ」

と安子さんはお礼を言った。