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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

と橋口夫人は如才ない。

「全く声量丈けが取柄と見えまして、お隣りへお気の毒なくらいでございますのよ」

と内藤夫人が笑った時、清君は絵雑誌から頭を擡げて、

「僕のところではお父さんが謡曲を歌うとお母さんが御本を取り上げてしまうんだ」

と八重子さんに話し始めた。

「清さん、それは何の御本? まあ、汽車ですか? 綺麗だこと!」

と直ぐ側に居合せた安子夫人はそれとなく口封じに努めた。しかし八重子さんは、

「家のお母さんは取りませんわ。お父さんと御一緒に歌うのよ」

と言った。

「取らないの? 僕のところは取る。喧嘩になる」

と清君は両手を挙げて得意になっている。

「清さん、清さん、後生ですから小母さんにその御本を拝見させて頂戴」

「これ?」

「清さんも八重子さんもこんな汽車に乗ったことがあって?」

と安子夫人はナカ/\骨が折れる。

「……つまり村島さんにも内藤さんにも夫れ/″\違った天分がおありですから、そこに目をつけて主人は一生懸命なんでございますよ。お弟子さんが有望だと自然励みが出ると申しましてね」

と橋口夫人は流石にお師匠さんの御内助だ。何処か褒めどころを捉まえて煽て上げる。