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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

これは中野辺にはもう安い地面がないという意味である。

「東京から何時間かゝる?」

と千吉君が訊いた。

「何時間なんてかゝって溜まるものか。丸之内まで五十分さ」

と大場君は力んだ。郊外生活者は東京に遠いと言われるのを最も厭う。そうして毎日参内でもするように必ず丸之内を引き合いに出す。

「そんなに近いのかね。それじゃ改めて敬意を表さなければならない。僕は一時間半もかゝると思って問題にしていなかった。しかし多少不便だろうね?」

「最初は皆然う考えるけれども、住んで見ると案外だそうだ。不便なことは些っともないらしい」

「電燈はあるんだろうね?」

と千吉君は益※(二の字点、1-2-22)迂遠振りを発揮する。

「笑わせるぜ。それだから来て見給えと言うんだ。水道と瓦斯がないばかりさ。しかしタンクを拵えれば水道も同じことだ。石油厨炉は瓦斯の代用になる」

と郊外生活をするくらいの人はすべて代用精神が熾んだ。土地からして大根畑を代用している。建物もバラック式文化住宅といって、家屋の代用である。交番がなくて泥棒が多いから犬を巡査に代用する。

「買物は何うする?」

「日用品は何でもある。