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さいのひみつばこ

妻の秘密筥

佐々木 邦

「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,212 字 · 25 页

青空文庫

会社で放送されたのはこの男と社長丈けだろう。社長は自動車が小田急と衝突して粉砕したけれど、運転手諸共軽傷を受けたばかりだったから、奇蹟として夕方のニュースに放送された。但馬君はハイキングもやる。何処のコースは自分が発見したものだなぞと法螺を吹く。山へ道をつけたのかと思ったら違った。人の拵えた道を歩いて発見もないものだ。

「一体、山を征服するなんて言葉からして間違っている。富士山へ登って富士山を征服したと思えるのかい? 料簡方が間違っているから、間違を起す。君達のやることは大仕掛の親不孝だ」

とその折広瀬君が貶しつけたのは痛快だった。但馬君のお母さんは独り息子が死んだと思って、狂乱のようになっていたのである。

その次に広瀬君自身を挙げなければならない。これは何も芸がないのに、但馬君の親友という関係から、いつの間にか、僕達の仲間に入ってしまった。僕達のは天狗の会だ。それ/″\勝れた余技を持っている積りだのに、広瀬君はその天狗の鼻を挫ぐ。一種の高等批評家だ。物事を否定するのに興味を持っている。

「おい。広瀬を除名しようじゃないか?」

と時折木寺君や海野君が業を煮やす。