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さいのひみつばこ
妻の秘密筥
佐々木 邦
「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,212 字 · 25 页
もう少し研究してから批評をする方が宜いだろう」
と受け答えて、唇を噛んでいた。
「海野君、僕はこの間君の謡曲の生理的解剖をして見たよ」
「ふうむ? 何うせ碌なことじゃあるまい」
「長くやっているから、声帯に胼胝が出来ている。獣医の方では、蹄血斑という。その胼胝が痙攣を起して悲鳴を揚げると、君の謡曲になるんだ」
こういう風だから、海野君も面白くない。但馬君に対しては昔馴染だから更に遠慮がない。
「登山やハイキングを率先してやるくらいの連中は元来が新感覚の僣称者だけれど、如何せん、画家や音楽家と違って不器用な生れつきだから、表現を脚で果す。つまり足が物を言う。それで山へ登る。何うだい? 但馬君。肩あたりが痛いだろう? 当り前なら耳が痛いだろうと訊くところだけれど、そこまで神経が来ていない」
と広瀬君が言った時、但馬君は口で答えずに、突如広瀬君の頬をピシャリと叩いた。僕達は慌てゝ但馬君を押えた。
「僕の言った通りだろう。興奮を芸術で表現しないで、直ぐに腕力に訴える」
と広瀬君は口が減らない。
「馬鹿!」
「雑音で来るのか?」
「広瀬君、黙り給え」
と僕が制した。尤もこんなことばかりはない。