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こどもはかなしみをしらず
子供は悲しみを知らず
小川 未明
「社会 創刊号」1946(昭和21)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,134 字 · 7 页
ある日、地主は、用たしでお寺のそばを通ると、ちょうど孤児たちが、庭で遊んでいました。境内には、はぎの花が盛りなばかりか、どこからともなく、もくせいの甘酸っぱいような香りがただよってきました。
一人の子が、ふいに、
――南から、南から、とんできた、きた、渡り鳥、うれしさに、楽しさに、――と、うたい始めたのです。すると、ほかの子も、手をたたいて、調子をとりました。歌うと、どの子の顔を見ても、無心で、さも楽しそうでした。
おそらく、このときの子供の心は明るく、なんの悲しみもなかったでしょう。地主は、それに誘われて、自分が子供の時分を回想しました。自分にも、こんな時代があった。いたずらをして、しかられても、すぐ悲しみを忘れて、なにを見ても楽しく、美しく、だれ彼の差別なくなつかしかったのであった。
「おしょうさんが、いわれたように、子供に罪はない。すべてが大人の責任なんだ。子供は、いつも美しいし、子供の心は、いつも朗らかだ。それを、なんと大人が、一たび道を誤ったばかりに……。」
こう感ずると、地主は、急に悪夢からさめたような気がしたのでした。同時に、目の前へ、清らかで、平らかな人として踏むべき道の開けるのを感じました。