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まごしちとずんど
孫七とずんど
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1943(昭和18)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,189 字 · 30 页
こうしていつか知らん白兵戦のなかを通りぬけ、やがてのことに敵の城門の前へゆき着いてしまった。冗談じゃないそんなばかなことが、……そう思ってつくづく見まわしたが、まさしく敵の城門の前に違いない、
「これはたいへんなことをした」孫七は思わずそう呟いた、「どうしよう……」
なんだかたいそう無作法なことをしでかしたような気持である、かれは赧くなって衒れ、途方にくれて溜息をついた、それからひき返そうとして向き直ったとき、合戦場のほうからばらばらと敵兵が崩れたって来た。孫七は左右を見た、味方は自分ひとりである、今こそ相手を横取りされる心配はない、つまり向うから崩れたって来る敵はぜんぶ自分ひとりのものだ、そう思うとかれは身内が疼くように感じた。かれは城門を背にぬっくと立ち、槍を高くつきあげながら叫んだ、
「やあやあ、これは榊原小平太康政の家来、柿ノ木孫七郎正吉なり、われと思わん者は」
すばらしい大音でそこまで叫んだ、するとそこで事態はいっぺんに変った。崩れたって来た敵兵と、それを追い詰めて来た徳川軍の先手とがこれを聞いたのである、そして城門の前に槍をあげて立っている孫七の姿を見た、味方は「おお孫七が一番乗りをしたぞ」