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まごしちとずんど
孫七とずんど
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1943(昭和18)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,189 字 · 30 页
「そんなことはわかりきっているよ」
「いやそうじゃない、これはそう簡単なわけのものじゃないぞ、たとえば此処に箭が一本ある」そう云ってかれは寸度が押しのけた箭をまたひき寄せた、「これを柿ノ木孫七郎とする、いいか石原寸度右衛門、そこへだな、もう一本この箭を持って来るとする」
「どうしてそう箭にちょっかいを出すんだ」寸度はその二本をひったくって隅のほうへ抛りだし、むずと坐り直して云った、「はっきり云うがおまえは嫁をとらなくちゃいかん、いいか、嫁をとるんだ、妻をもつんだ、身をかためるんだ、わかったか」
「おまえは堪え性のない男だなあ石原寸度右衛門、もう怒ったのか」
「なにも云うな、今日おれが晩飯をするから来い、そのときまたよくわかるように話してやる、いいか晩飯だぞ」寸度は叩きつけるように云うと急いで出ていってしまった。
どうかして孫七郎を世に出してやりたい、それが寸度のねがいだった。かれはまた不運なめぐりあわせで、二十七歳にもなるのにまだいちども戦場へ出たことがない、いつも留守の番にまわされる、あたりまえの者なら是が非でもいちどやにどは出陣をねがい出るだろうが、かれは命ぜられたら命ぜられるとおり、おっとりなんの不平もなく与えられた役目をこつこつと守っている、寸度にはそれが歯痒くてならない、なんとかしてかれの存在をはっきり