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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

それまで待ってくれ」

「いえ、私はそういう意味で言ってるんじゃ無いんです……」

「それはそうと、先刻の金のことはどうしてくれる」

「何とか工面して見ましょう。いずれ御返事します」

「そんなことを言わないで、確かに是処で引受けて帰ってくれ」と言って、森彦は調子を変えて、「今日は、貴様は、ドエライやつを俺の許へ打込みに来たナ――いや、しかし面白かった」

兄は高い声で笑った。

晩の八時過に、三吉はこの旅舎を辞した。電車で帰って行く途中、彼は兄の一生を思いつづけた。家へ入ると、お雪は夫から帽子や外套を受取りながら、

「森彦さんのとこでは、どんな御話が有りました」と尋ねた。

「ナニ、金の話サ」と三吉は何気なく答える。

「大方そんなことだろうッて、阿爺さんも噂していましたッけ――阿爺さんが貴方のことを、『父さんも余程兄弟孝行だ』なんて――」

夜中から降出した温暖な雨は、翌朝に成って一旦休んで、更に淡い雪と変った。

午後に、種夫や新吉は一人ずつ下婢に連れられて、町の湯から帰った。銀造も洗って貰いに行って来た。お雪は傘をさして、終に独りで泥濘った道を帰って来た。

明るい空からは、軽い綿のようなやつがポタポタ落ちた。