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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

山村に眠る両親の墳は未だそのままにしてあったので、幸作へ宛てて手紙を送って、墓石のことを頼んで遣った。返事が来た。石の寸法だの、直段書だのを細く書いて寄した。九月の下旬には、三吉は豊世からも絵葉書を受取った。

「其後、叔父様、叔母様には御変りもなく候や。国へ帰りて早や一月にも相成り候。こちらも思うように参らず、留守宅のことも案じられ、一日も早く東京へ参りたく候――」

と細い筆で書いてある。

秋も末に成って、幸作からは彫刻の出来上ったことを報知して来た。そこそこに三吉は旅の仕度を始めた。姉の様子も心に掛るので、諏訪の方から廻って、先ず橋本の家へ寄り、それから自分の生れ故郷へ向うことにした。森彦や正太は名古屋に集っている。序に、帰りの旅は二人を驚かそうとも思った。お雪も夫の手伝いでいそがしかった。お種のことや、幸作夫婦のことや、未だ郷里に留まっている豊世のことなぞが、取散した中で夫婦の噂に上った。

「橋本の姉さんも、親で苦労し、子で苦労し――まだその上に――最早沢山だろうにナア」

と夫の嘆息する言葉を聞いて、お雪も姉の一生を思いやった。

家を出て、三吉は飯田町の停車場へ向った。