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いえ

家

島崎 藤村

01 (上)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页

青空文庫

「三吉帰ったかい」

こう言いながら、お種も団扇を持って入って来た。

「私も横に成るわい。今夜は二人で話さまいかや」

と復たお種が言って、弟の側に寝転んだ。東京にある小泉の家のことは自然と姉の話に上った。相続人の実も今度はよくやってくれればいいがということ、次の森彦からも暫時便りが無いこと、宗蔵の病気もどうかということ、それからそれへと姉の話は弟達の噂に移って、結局吾子のことに落ちて行った。お種は三吉の考えないようなことまで考えて、種々と正太の為に取越苦労をしていた。

「若いもののことですもの、お前さん、どんな間違がないとも限りませんよ――もし、子供でも出来たら。それを私は心配してやる」

こうお種は言って、土地の風俗を蔑視むような眼付をした。楽しそうな御輿の響は大切な若い子息を放縦な世界の方へと誘うように聞える……お種は正太のことを思ってみた。誰と一緒に、何処を歩いている、と思ってみた。そして、何の思慮も無い甘い私語には、これ程心配している親の力ですら敵わないか、と考えた。

「私が彼に言って聞かせて、父親さんも女のことでは度々失敗が有ったから、それをお前は見習わないように、世間から後指を差されないようにッて――ネ、種々彼に言うんだけれど……ええええ、彼はもう父親さんのワルいことを何もかも知ってますよ」