轻松读懂日语经典作品
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さむはし
寒橋
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,416 字 · 36 页
お孝は暗い水を覗きこんで云った。
「――こんなに苦しいのに、あのひとが憎めない、憎いんだけれど離れられない、まえよりもあのひとが恋しくって、それでそばへ寄られると鳥肌の立つほどいやで、……独りになると死ぬほど苦しくなるの、ねえ、どうしたらいいの、教えて、おっ母さん、ねえ、あたしどうしたらいいの」
たぷたぷと岸を打つ波の中から、母の顔がすっと浮きあがり、手招きをしながらこう云った。
「――おいで、お孝、こっちへ、おっ母さんのほうへおいで……」
お孝はぞっと総毛立った。あまりにはっきり聞えたからである。そして後ろへさがろうと思いながら、ふらふらと逆に足が前へ出たとき、強い力で激しく肩を抱き緊められた。
「ばかなまねをするな、お孝」
耳もとでこう叫ばれ、はっとして、身をもがいてその手を振放した。
「なによ、なにがばかなことよ」
お孝は髪へ手をやりながら云った。
「むしむしして頭が痛いから、ちょっと川風に当りに来たんじゃないの」
「――お孝……」
時三は大きく喘ぎながら、ごくっと唾をのみ、片手を妙なぐあいに振って、それからしゃがれたような声で云った。
「すぐ帰って呉れ、お父つぁんが悪くなったんだ、おれはこれから医者へいって来る」