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さむはし

寒橋

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,416 字 · 36 页

青空文庫

そのくらいの気持でするがいい、おまえのは自分本位で、そういう気持はなおさなければいけない。

この種の問答が幾たびかあった。

――まあいやだ、世間の飾りだとか人の眼をたのしませるなんて、あたし聞くだけでも胸がむかむかするわ。

お孝はのないところこう思っていた。それが時三を婿にとってから変った。父親の云ったことは本当らしい、髪をいじり化粧をするとき、ふと気がつくと時三の眼で自分の髪かたちや化粧の効果をみている。時三はむくちでなにも云わないが、髪化粧が気にいったときはほうという眼つきをする。

――あざやかだね、眼がさめるようだね。

そんなふうに云っているのがわかる。くち上手な者の百千言よりも、良人のそういう眼つきのほうが含みがあってよほどうれしい。またおたみを伴れて買い物に出るときなども、人に振返って見られたりすると張合があった。……むすめ時代には自分の縹緻にひかれるのだと思って、いやでないまでも愉快な気分にはなれなかった。しかし今では自分が誰かの眼をたのしませるということが、或る程度まで逆に自分をたのしくさせるようになった。そんなこともしぜん化粧が念入りになった原因かもしれない。