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しょうせつのタネ
小説のタネ
吉川 英治
「文藝春秋」1957(昭和32)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,376 字 · 23 页
小説みたいな物を書いてみた初めは十一、二の時でしたね。もう盛んに江戸文学やら翻訳物の柔かいのを匂いで嗅ぎ分けては読んでいたんです。ところが、それを親父に見つかって、風呂場の焚きつけにされたとき、
『読んでばかりいないで、書いてみろ』
と言われたんです。それへ、むきになって、ちょうど、自分の家の近くの普門院に捨子があったのを、或る朝、見に行って、捨子を題材にして書いたんですよ。それも、親父には示す勇気もなかったですが、義兄に見せて、笑い草にされました。だから、その頃の空想癖は、ただ空想の中で堂々めぐりしてるだけでなく、それの噴出口を与えられれば、いつでも、書くなり行動に移せるほどな大真面目なものだったことがわかります。稚気は苦笑されますが、こわいもんですな。だから「忘れ残りの記」に書いた貧乏も、その頃、自分自体はそう深刻にはちっとも思ってなかったですね。おそらく空想の遊びが助けていたんでしょう。切れ草鞋を履いて歩いた朝でも僕は必ず空想していたんだよ。たとえば、ドックの高い足場板を渡るときは恐らく足がすくむんですよ。しかし、仕事に向うと手だけの事で頭は完全に遊べるからすぐ空想に入るんです。