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しょうしょうしげもとのはは
少将滋幹の母
谷崎 潤一郎
「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页
晝を欺く光の下でそう云うものを見た凄じさは、凡そ想像に難くないが、滋幹は恐さに顔を背けることも、身動きすることも、まして声を発することも出来ず、その光景に縛りつけられたようになって立っていた。が、父はと見ると、しずかにその屍骸に近寄って、まず恭しく礼拝してから、傍に置いてある莚の上にすわるのであった。そして、さっき佛間でしていたように凝然と端坐して、とき/″\屍骸の方を見ては又半眼に眼を閉じて沈思し出したのであった。
その時月はひとしお研ぎすまされたように冴え、四辺の寂寞は前より一層深まっていた。風がおり/\かすかに渡って、すゝきがざわ/\する外には、虫の音が際立ってひゞくばかりであった。そう云う中でひとり影の如く孤坐している父を見ることは、何か奇怪な夢の世界に引き入れられた感じであったが、でもあたりには鼻を衝く屍臭が瀰漫していたので、そのために滋幹は否応なしに現実の世界へ呼び戻された。
此の、滋幹の父が女の屍骸を見た場所と云うのは、何処のことか明かでないが、蓋しその頃の京都の街には、こう云う風な屍骸の捨て場が方々にあったのであろう。当時は痘瘡とか麻疹とか云う疫癘が流行って死人が多く出たりすると、一つには伝染を恐れるのと、一つには処置に困るのとで、何処と云うことなく、空地があれば病人の屍骸を運んで行って、しるし