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しょうしょうしげもとのはは

少将滋幹の母

谷崎 潤一郎

「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页

青空文庫

その十

ばかりに土をかけたり、莚で蔽うたりして葬ったものらしいので、これもそう云う場所であったかと察しられる。

その十

父がその屍体と相対して冥想に耽っていた間、滋幹はとある塚のうしろに蹲踞って息を詰めていたのであったが、中天にあった月がやゝ西に傾き、彼が身を隠していた一と束の卒塔婆の影が地上に長く横わるようになった頃に、父は漸く立ち上って帰路に着いた。滋幹は又、来た時と同じ路を、跡を追って行ったのであるが、彼が思いがけなく父から声をかけられたのは、さっきの小川の橋を渡って、すゝき原へさしかゝった時であった。

「和子、………和子は今夜、わしが彼処で何をしていたと思う?」

父はひとすじ路の中途で、今歩いて来た方へ向き直って立ち止まり、滋幹が後から来るのを待ち構えていたのであった。

「わしは和子が跡を附けていたのを知っていたのだよ。わしは少し考があって、わざと和子のするようにさせていたのだ。………」

そう云っても滋幹が黙っているので、父は一段と声を和げ、優しみのある調子でつゞけた。

「ねえ、和子、わしは和子を叱る訳ではないのだから、正直に云って御覧。和子は今夜のわしのした事を初めから見ていたのだろうね」