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しょうしょうしげもとのはは
少将滋幹の母
谷崎 潤一郎
「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页
客人たちの座に着いたのが申の刻を少し過ぎた時分で、宴が開かれると間もなく日が暮れたが、その晩は特に酒杯の進行が激しく、主客共に酔いの循り方が速かであったのは、旨を啣んでいた定国や菅根たちの取持ちのせいもあったであろう。やがて時平が、
「酒ばかりでは面白うない、………」
と、末座の方へこなしたのを合図に、或る少納言が横笛を取り出して吹き始める。それに合わせて誰かゞ琴のことを弾く。扇で拍子を取りながら唱歌をうたう。つゞいて箏のことや、和琴や、琵琶が運び出された。
「御老体々々々、まずあなたからもっとお重ねにならなければ、………」
「御主人公がそう慎しんでおいでになる手はありませんな。それではわれ/\も酒がさめます」
「いや忝い/\、………愚老はたゞもう忝うて/\、………こんな嬉しいことは八十年来始めてゞ、………」
国経が酔い泣きしそうな口調で云うのを、
「あはゝゝゝゝ」
と、時平が持ち前の濶達な笑いで打ち消した。
「そんなことはお置きなされい。それよりもっと浮き/\と騒ごうじゃないですか」
「いかにも/\」
と云って、国経は突然声を張り上げて謡った。
「我に酒を勧む、我辞せず、請ふ君歌へ、歌うて遅きこと莫れ。