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しょうしょうしげもとのはは
少将滋幹の母
谷崎 潤一郎
「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页
「いっそのこと、今暫く酔いをお覚ましなされてからお帰りになることですな」
「いや/\、あまり長座をしては主殿が御迷惑だ」
「何を仰っしゃる! こんなむさくろしい所ですが、お気に召したらいつ迄でも御ゆっくり願いたい!」
いつの間にか国経は時平に体を擦り寄せて坐って、その手を執らんばかりにして口説いていた。
「殿々、愚老はあなたを無理にでもお引き止めしますぞ、帰ろうと仰っしゃっても決してお帰し申しませんぞ」
「ほゝう、長座をしてもよいと云われるか」
「よいどころの段ではござらぬ」
「しかし私をお引き止めになるなら、もそっと何か、特別のおもてなしをなさる必要がありますな。―――」
突然時平の声の調子が変ったので、国経が見ると、さっきまで赤味を帯びていた顔の色が蒼白になり、唇の端を神経質にピクピクさせているのであった。
「―――今宵は至れり盡せりの御饗応に与り、結構な引出物まで頂戴したことはしましたが、まだこれだけでは、憚りながら此の左大臣を引き止めるには足りませんな」
「そう仰っしゃられると穴へでも這入りたい! 愚老としましては此れが精一杯なのですが、………」
「あなたは此れで精一杯だと仰っしゃるが、失礼ながらあの箏のことゝ馬二匹では、まだ引出物が不足ですな」