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しょうしょうしげもとのはは
少将滋幹の母
谷崎 潤一郎
「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页
「帥殿、此の引出物はたしかに頂戴しましたぞ。これでこそ今宵参った甲斐がありました。心からお礼を申します!」
「おゝ、世に二つとない宝物が始めて所を得たのです。愚老こそお礼を申さなければ!」
国経は時平に席を譲ると、屏風の此方へ引き下って来て、
「方々!」
と、事のなりゆきを呆然と眺めていた公卿や上達部たちに声をかけた。
「さあ、方々、―――御一同はもはや御用はございますまい。そうして待っておいでになっても、恐らく大臣は急にはお出ましになるまいと存ずる。どうぞ御遠慮なく、御自由にお引き取りになって下さい」
そう云いながら、畳んだ屏風を再びひろげて、御簾の前を囲ってしまった。
意外なことがつぎ/\と起るのに、客人たちは度胆を抜かれて、館の主から「帰れ」と云われても直ぐには動くけしきもなく、興奮しきった主の顔の、喜んでいるのか泣いているのか判断のつかない眼つきを見ていた。
「さあ、どうぞお引き取りを」
と、重ねて主が促すと、人々の間に漸くざわめきが湧き上ったが、それでもなお、あっさりその場を出て行った者は幾人もいなかった。不承々々に立ち上ったものゝ、大部分はへんな眼をして顔を見合わせ、ちょっと出て行きそうにして又立ち止ってしまったり、柱や戸の蔭にひそんだりして、事件の落着を見届けなければ気が済まないと云う風であった。