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しょうしょうしげもとのはは

少将滋幹の母

谷崎 潤一郎

「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页

青空文庫

が、否み難くなって来るのであった。

「讃岐、………」

と、国経は次の間に控えている筈の老女を呼んだ。これはむかし北の方の乳人をしたことのある、四十あまりになる女で、嘗て讃岐介の妻になり任国へ下って暮すうちに、夫に死なれたので北の方の縁を頼って来、こゝ数年来大納言家に奉公をしているのであるが、大納言にすれば年の若い北の方を娘のように思うところから、どうかした折には此の女房を娘の母親のように思い、夫婦間のことは勿論、家事萬端の相談をしたりするのであった。

「もうお眼ざめでいらっしゃいますか」

と、讃岐はそう云って枕許に畏まったが、国経は顔を夜着の襟に埋めたまゝ、

「うむ」

と一と言、不機嫌に答えた。

「いかゞでいらっしゃいますか、御気分は」

「頭痛がして、胸がむか/\する。わしは二日酔いをしたようだ。………」

「何ぞお薬を持って参りましょうか」

「昨夜は大分過したらしいが、どのくらい飲んだであろうか」

「さあ、どのくらい召上りましたやら。………あんなにお酔い遊ばしたのを、ついぞ見たことはございません」

「そうか、そんなに酔っておったか」

国経はそこで顔を出して、

「讃岐」

と、少し調子を変えて云った。