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しょうしょうしげもとのはは

少将滋幹の母

谷崎 潤一郎

「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页

青空文庫

「今朝眼がさめたら、わしはひとりで寝ている。………」

「はい」

「これはどう云うことなのか。上は何処へ行かれたのか」

「はい、………」

「はいでは分らん。いったいどう云う訳なのだ。………」

「昨夜のことを、おぼえておいでにならないのでございましょうか」

「今少しずつ思い出しているのだが、………上はもう此の館におられないのだろうか。………あれは夢ではなかったのだろうか。………わしは左大臣がお帰りになろうとするのを、無理にお引き止めした。そうしたら左大臣が、箏のことゝ馬だけでは物足らぬ、もっと立派な引出物をせい、物惜しみをするなと仰せになった。そこでわしはあの命よりも大切な人を、引出物として差上げた。………あれは夢ではなかったのだろうか」

「ほんとうに、お夢であったらようございますものを。………」

不意に、何だか鼻をすゝるような音がしたので、国経が顔を上げてみると、讃岐は袖で面を隠して、じっと俯向いているのであった。

「それでは、夢ではなかったのか。………」

「憚りながら、何ぼう酔うていらっしゃったにしましても、どうしてあんな物狂おしい真似をなさいましたか。………」

「もうそんなことを云うのは止せ。