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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页
それから十分とたたない間におそろしいピストルの音が聞えたのじゃ。驚いて行ってみると机の前にぶっ倒れていた。血が額からどくどくと出ての、それでも呼吸だけは長い間続いていたが、もう物を言っても何にもわからんのじゃ。わたしは思いだすのもおそろしい――」
母はまたおろおろ声になった。
壁一重によって劃られた事務室の方からは慌しくスタンプを捺す音が聞えてきた。その音がわたしの頭の中に沁み透るようにひろがってきた。長い間聞馴れた音であった。だが今はその音が空虚な家の中に、嚇すような響きをもって伝わってきた。
「お前は一眠りしたらどうかな」
と、母が心配そうに言った。
「ああ、そうしようか」
わたしは長い旅の疲れを始めて後頭部のあたりに感じた。じっとして坐っていると無数の人声がもつれるように遠くから呼びかけてくるような気がした。わたしは逃れられない一つの危険に当面している自分の心をありありと感じないでは居られなくなった。わたしは不意に立ちあがった。そして、廊下へ出ると、事務室との境になっている扉を勢いよくあけた。何かしら一つの力がわたしの身体を其処へ追いやってしまったような気持であった。