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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页
忘れがたい瞬間であった。そのとき、わたしの正面にあたる柱の上に大きな八角時計があった。表面の硝子は埃りのために黄色くなってくすんで見えた。それが子供の頃から今と少しも変らない同じ場所に懸っているということが何とも知れず不思議なことのように思われる。その前で、毎日のように叔父が爪立ちをしながら饒舌りつづけていたのだ。時計は無気味な音を立てて、時を刻んでいる。その音はわたしの心の底に眠っている十年前の不安の一つ一つを呼び醒ましてゆくような気がした。
そのとき、表の開き戸があいて、洋服を着た一人の男が入ってきたのだ。一瞬間、彼の身体は夕陽の中に硬直したようになって動かなかった。
その男は背の高い事務員の方に近づいていった。そして、机の上に首を屈めるようにして話していたが、わたしはときどき彼の陽にやけた顔から流れてくる睨むような視線を感じた。彼とわたしとの距離は一間ほどしかなかったのにもかかわらず、彼の眼は非常に遠いところにあるような気がした。しかし彼はすぐにわたしの方を向いて軽い会釈をした。
「弟さんですね?」
低い声であったが、わたしはほとんど直覚的に彼が名古屋の管理局から派遣された視察員にちがいないことを感じた。