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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页
恋を載せた船
とにかく、秀人は、半ばの未練と執着を残したままで、飄然と日本を去った。
私は彼を横浜まで見送りにいったが、そのとき花柳と同じ帰りの電車に乗り合せたので、そのときの感慨は、いまでも、まだなまなましく残っている。中野秀人の海外脱出とともに、花柳の姿は舞台の上から消えてしまった。これだけ有名な女優であれば、いかに姿をくらましたところで、風のたよりにつたわってくる消息というものは、必ず噂の種にのぼるものであるが、花柳の場合だけは、杳として影を絶ったまま今日に及んでいる。
恋を載せた船
ところが、心の傷手をおさえて日本を去った中野秀人が数年の後、血統も正しければ由緒もふかいスペイン貴族の娘と、あたらしく恋愛に陥ち、日本で結婚式を挙げるために、オランダからアメリカの貨物船に乗って帰ってくるという通報が入った。
私は、彼から届いた手紙を手にしたとき、私は古典的な小説中の一情景が、忽然として私の眼の前にうかびあがったような思いにうたれた。
秀人を知っている仲間だけではなく、この噂は街じゅうにひろがっていった。
まったく、妬ましいような、待ちどおしいような、何に対してともなく高まってくる感情の中で、私は数年間の空白が彼にとって決して無駄ではなかったことをかんじた。