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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页
むしろ売ったのが森野行者で、売られたのがあのひとにちがいございません。あのひとはうっかり森野行者にうちあけられたことについて自責の念にかられながらも、こんどは逆におのれの犯した過失によっておのれを救おうとなさいましたことが心の迷いなのではございますまいか。考えれば考えるほどお気の毒でなりませぬ。何も彼も運命だと言いきれないものがあのひとの負うべき業苦のかたちであったと申すほかはありますまい。こうして生きるにも生ききれず、死ぬにも死にきれず六十年にちかい御生涯を世の物笑いとなってふみにじっておしまいなすったことだけはかえすがえすも残念でございます。あのひとが岸本柳亭の同志としておのれを偽ることのできなかったところに一つの真実があるのではございませんか。結局あのひとが最後に申されたワナ(陥穽)という言葉よりほかにその真実をつたえるものはございますまい。何だかながいおしゃべりをいたしておりますうちに、妙に心がみだれてまいりました。久しぶりで昔の気もちにかえったせいでございましょう。まったく世の中は、不思議なことばかりでございますね。人の世のことは何も彼もときのはずみでございます。