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あきかぜとはは

尾崎士郎短篇集

尾崎 士郎

尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页

青空文庫

「じゃ、わかれてしまうのね?」

「そうだ。――」

しかしそう言ってから彼は、急に心の中がげっそりして虚ろになってしまったような気がした。A子が彼の背中にしがみついて烈しく泣きはじめた。その泣声が、彼の胸の中にひろがってきた。彼は少しずつ自分がうしろへ引き戻されてゆくのを感じた。

「おい。お前はじっとしているんだ。おれは一寸そとを歩いてくるから」

緒方新樹はついと身を躱すようにして立ちあがった。彼はうしろにA子の声を聞いたような気がしたが、しかし、彼はわざとその声を払いのけるもののように縁側の障子をぴしゃりとしめた。星の冴えた夜である。彼は宿の裏手の草道伝いに水際までおりていった。彼の眼の前にはまん中にある大きな岩のために川の流れが二つにわかれ岩の横腹には波の飛沫を浴びた水苔がうす闇の中に光っている。彼はその前にしゃがんでじっと岩の横腹を見詰めていた。すると断続的に岩に殺到してくる白い浪がしらの尖端から黒いものが岩にとびつき、そのままずるずると上の方へ這いあがってゆくのを見た。

一つ、二つ、三つ、――と、彼は水苔を縫うように、ぬらぬらと這ってゆく異様な生物の行方を追っているうちに、やがてそれが河鹿であるということに気がついた。