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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页
するとあたらしい空想に胸をときめかせている多吉の顔も何時の間にかこの運動の外廓的な雰囲気の中に陥ちこんでいったらしい多吉の兄の丈吉の顔も、すべて歴史の断面をよぎる無数の幻影の中の一つのように思われてくる。そう言えば多吉のような男はこういう変乱のどさくさの中には昔から数かぎりなくあった民衆煽動者の一人にちがいないであろう。自分がどんなにすぐれた男であるかということを自分に言いきかせないでは一日たりとも生きられないような不安が、彼にしてみればこの偶然のきっかけの中で「時が来た!」とよびかけるのも当然であるが、しかし、それも彼が民衆の代表者となろうと考えているわけではなく、何かこの混乱の動きに調子を合せないではいられない気もちなのである。伍一はこの二、三年間、彼の家にずるずるべったりの居候生活をつづけてきた多吉が、現実の惨苦を身にしみじみと味えば味うほど、貧困の中に喘いでいる彼の一家を何とかして救い出そうとあせりぬく気もちを道化じみた彼の姿勢の中からかんじないではいられなかった。まかりちがったらおれだって文芸院総裁ぐらいにはなれるぞ、――と本気で自分にささやきかけながら精一ぱいの幻覚をもちこたえている彼の顔が急に伍一の頭の中で言われようのないいじらしさをもってはればれと輝いてくるのである。