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あきかぜとはは

尾崎士郎短篇集

尾崎 士郎

尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页

青空文庫

そのときの兄の言葉が何を意味するのか、わたしにはまるで、わからなかった。しかし、わたしが目撃したこの数分間の情景は朦朧とした兄の言葉から明かに一つの、最早決して疑うことのできない暗示をわたしの胸にあたえた。嘗つて起らなかった何事かがこの家の中に起りかけている。――

わたしは再び足音を忍ばせて仏間へ帰り、何事も知らない母のために、途中でやめてしまった新聞の続き物を読みはじめたが声が顫えてどうしても読みつづけることができなかった。それきりで、兄の声は最早父の居間から聞えなかった。だが、翌朝になると、父も兄も何時もの調子で話をしていた。いや兄は平常よりも一層、父に対して機嫌がよかった。

冬の休暇が終りに近づいていた。年末に入って事務室の中の空気は急に活気づいて来た。事務員たちは夜おそくまで残って年賀郵便の区分をやらなければならなかった、兄は一人の若い事務員に算盤を弾かせながら帳簿の数字を読み上げていた。

賑やかな笑い声が十二時近くまで続いた。ときどき兄の詩吟が台所の方まで聞えてくることもあった。

夜、わたしは仏間に続いた六畳の室で眠っていた。一時頃であったろうか、わたしは不意に飛び起きて蒲団の上に坐ってしまった。