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やまだちもんどう

山だち問答

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,163 字 · 32 页

青空文庫

三

三

月は高かったが雲があるので、道は明るくなったり暗くなったりした、谷のほうからはしきりに冷たい風が吹きあげて来た。……ちょうど十二時ごろであろう、一昨夜の場所まで来ると玄一郎はそこで立止った。左の手で刀の鍔元を掴み、暫くあたりの物音を聞きすますようだったが、やがて「おーい」とすばらしく大きな声で叫んだ。

「おーい山だちどの、おーい」

「旦那なにを」弥九郎はびっくりして蒼くなりながら手を振った、「……そんな乱暴なことを仰しゃって、待って下さい、とんでもない」

「山だちどのはいないか」と、玄一郎は構わず叫び続けた、「……一昨夜ここを通った者だ、山だちどのはいないか」

おうと答えるのが聞えた。下僕は妙な声をあげ、刀の柄を握りながらうろうろと玄一郎の背後へ身を隠した。右手の杉林の中でがさがさという音がして、松の火がこちらへ下りて来た。見ていると、そこへ現われたのは例の巨漢と十人ばかりだが、やっぱり道の向うの暗がりへ十四五人、うしろ備えというかたちで身をひそめるようすだった。

「これはこれは」と、道へ下りた巨漢は要心ぶかくこちらの態度に注意しながら近寄って来た、