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やまだちもんどう
山だち問答
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,163 字 · 32 页
供の弥九郎はそれまでものも云えず、足も地に着かぬようすだった、然し明り障子に灯影のさしている家などがみえはじめると、ようやく生気をとり戻したとみえ、急にわっはっはと笑いだした。彼は急に能弁になり、「あんな間の抜けた山賊は伊曽保物語にもあるまい」とか、「あいつらが今日か明日かとばかな面をして待っている恰好が見たいものだ」とか、「それにしてもあれほどうまくかれらを言いくるめた旦那の奇智と胆力はすばらしい」とか、たいそうな元気で饒舌りたてた。玄一郎は黙って饒舌らせて置いたが、さいごにひと言こう云ってたしなめた。
「そんなことをむやみに口にしてはいけない、人に聞かれたら恥になるぞ」
彦根に着いて用事をはたしたのはその明くる日のことだった。用事が済むとすぐ、彼は弥九郎ひとりを伴れて帰途についた。むろん道を違えるか、さもなければ所の役人に訴えて警護の人数を同伴するものと信じていた下僕は、訴え出たようすもなく、然も同じ道を帰るのはどうする積りかと、主人の気持を量りかねて疑い惑うようだった。……玄一郎はそんなことに頓着せず、ずんずん道を早めて、まるで夜半の刻を計ったように、元の峠へさしかかった。