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やまだちもんどう

山だち問答

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,163 字 · 32 页

青空文庫

頼もうと云って、玄一郎は傘の中へ入った。山門を出ようとしたとき、又作はそこにいる娘をみつけた、そしてたいへん吃驚したようすで低頭した。玄一郎は見向きもしなかった、石段を下りて左へ、半町あまり来てから、又作はなにか秘密なことでも告げるように、「勘斎老人のお嬢さんだよ」と云った。勘斎老人とは老職戸田内記のことで、その老人に小雪というずぬけて男まさりの女があるということは、玄一郎もいつか聞いた覚えがある。小太刀、弓、薙刀なども達者だし、殊に馬にはひじょうに堪能で、しばしば独りで遠く城下外まで乗りまわすという評判が高かった。

「老人はまるで、眼の中へでも入れたいような可愛がりようさ、それだもんですっかり野放図になってしまった、立ち居ふるまい言葉つきまで男そっくりだよ、いつかなんぞ客のいる部屋の前を風呂からあがった素裸のまま平気で通ったというからな」

「世間の噂は無責任なものだよ」

「然しあの女の場合は噂以上さ、現におれがこの眼で見ているんだから、それに」

「有難う」

曲り角へ来たので、玄一郎は傘の中から出て別れを告げた、「……もうそこだから駈けていこう、おかげで助かったよ」